前立腺がんの検査と治療


こんな検査を受けます

1.スクリーニング検査:PSA検査

PSA(前立腺特異抗原)という画期的な腫瘍マーカーの開発・普及によって、80%~90%という高い確率で前立腺がんを見つけることができるようになりました。集団検診のスクリーニングでPSA検査を行うところも多くなり、早期がんの発見に役立っています。血液検査だけでわかるという簡単な方法は、受診者にも負担がかかりません。
PSAは前立腺の上皮細胞で作られる糖たんぱく質です。がんがあると、血液中に流れ出るPSAの量が急激に増えてくるので、PSA値が高いとがんが疑われます。PSA値は一般的に以下のように分けて判定されます。

・4ng/mL以下: 陰性
・4.1~10ng/mL: グレーゾーン
・10.1ng/mL以上: 陽性
(ngは10億分の1gのこと。ナノグラムと呼ぶ)

PSA値が4ng/mL以下の陰性の人は、年1回程度PSA値を測定して経過を見守ります。いわゆるウォッチフル・ウエイティングで、「あなたはもう大丈夫」というお墨付きをもらったと考えるのは大きな間違いです。
10.1ng/mL以上であれば、がんの疑いが高くなります。進行がんでは100ng/mL以上の値に跳ね上がることもあります。問題は4.1~10ng/mLというグレーゾーンの場合です。
この領域にはがんの人と肥大症の人の両方が含まれている可能性があります。というのは、PSAは前立腺がんに特異的なのではなく、前立腺という臓器に特異的な物質のため、肥大症や前立腺炎など、他の前立腺疾患がある場合でもPSA値が上昇するからです。そこで、PSA値がグレーゾーンの場合は、二次検査として直腸診、超音波検査を行い、どちらかひとつが陽性だったら、確定診断のための針生検に進みます。PSA、直腸診、超音波検査の3つを組み合わせることにより、かなり正確に診断できます。


2.二次検査

a. 直腸診
肛門から直腸に指を入れて、前立腺の状態をみる方法です。がんがある場合は前立腺が石のように硬かったり、表面に凸凹があってゴツゴツした感触があります。慣れた医師であれば、ほぼ正確な診断ができます。しかし1人の医師の判断に委ねることになりますから、客観性に欠けるという難点はあります。診察時は膝肘位(肘と膝を床についた状態)、仰臥位(仰向けに寝た状態)などの体位をとりますが、最近は患者さんにとって抵抗の少ない、横に寝た状態で行われることが多くなりました。

b. 超音波(エコー)検査
肛門から直腸に超音波を発生する器具を挿入して、前立腺の断面を画像にする経直腸的超音波断層検査を行います。この検査では前立腺の大きさが正確にわかり、直腸診では触れることのできない部分の状態もわかります。患者さんに画像を見せながら説明できる点も強みです。しかし画像を正確に読みとるには習熟が必要で、小さいがんを見つけるのには適しません。比較的苦痛が少ない検査です。

3.確定診断:針生検

PSA検査、直腸診、超音波検査の結果、がんの疑いがあれば針生検を行います。この検査で最終的にがんであるかどうかを確定します。検査では、組織の一部を採取して顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。最近では「バイオプシー・ガン」というスプリング式の器具で、瞬時に針を刺して組織を採取する方法が用いられており、前立腺の12ヵ所から組織を採取する方法が主流です。この検査で何ヵ所からがんが見つかったかと、PSA値を組み合わせると、早期がんであるか進行性のがんであるかの鑑別もほぼ可能です。

4.治療を行うための検査:MRI、CTなど

前立腺がんであることが確定すると、転移していないかどうかをMRI(磁気共鳴画像法)やCT(コンピュータ断層撮影法)を使って調べます。
最初はリンパ節に転移することが多いので、骨盤部分を撮影して確認します。次に多いのが骨への転移です。これには「骨シンチグラフィ」という、骨にできたがん組織に集まる放射性物質を静脈に注射して撮影する方法です。
これらの検査結果から、病期がどの段階にあるかを最終的に診断して、治療の方針を決めます。


こんな治療法があります

治療法の決めかたは?

どのような治療をしていくかは、患者さんの病期、年齢、合併症の有無、希望などを総合的に判断して方針を決めます。
おもな治療法には、「内分泌療法」「放射線療法」「手術療法」などがありますが、この中のどれかひとつを選択するのではなく、いくつかの治療法を組み合わせて行うのが普通です。そして、医師と相談しながら、最終的な治療法を決めるのは患者さん自身です。

1.薬物療法

a. 内分泌療法

前立腺がんは他のがんに比べ、薬物療法が非常に有効です。
その中心となるのが内分泌療法です。前立腺は男性ホルモンに依存している特異な臓器ですが、この性質を応用して、薬剤で男性ホルモンをブロックする方法です。男性ホルモンをブロックするには、LH-RHアナログ(黄体形成ホルモン放出ホルモン類似物質)の1ヶ月に1回の注射や、除睾術があります。その他、抗男性ホルモン剤(内服)もあります。現在はLH-RHアナログ(又は除睾術)と抗男性ホルモン剤を併用する治療も行われています。

b. 化学療法

前立腺がんの治療は内分泌療法が主流ですが、まれには効果のないこともあります。その場合には、化学療法(抗がん剤)が使用されることがあります。また、女性ホルモンも前立腺がんに効果があるといわれており、女性ホルモンと抗がん剤を結合させた薬が使用されることもあります。

2.放射線療法

放射線療法は、従来は膀胱や尿道、腸管など周辺臓器の副作用のため、二次的選択として評価されていました。しかし最近は、効果を高め副作用を減らすためのさまざまな工夫がなされています。最近注目されているのが、内分泌療法によりがんを小さくしてから、限られた部分にのみ放射線を照射する方法です。正常細胞への放射線照射を低下させることができること、内分泌療法と放射線療法ではがんに対する作用が違うので、相乗効果が期待できることなどが注目されている理由です。
また、より治療効果の高い装置が開発されたことも、注目されている理由のひとつです。照射方法には外部照射、術中照射(開腹して臓器に直接照射する)、組織内照射(病巣に針を刺し、その先端から照射する)の3種類があり、現在は外部照射が一般的です。

3.手術(前立腺全摘除術)

手術が可能なのは一般的に70歳未満で、病期Bの早期がんまでです。最近では早期発見が可能になったため、手術をするケースが多くなりました。手術は前立腺、膀胱頸部の一部、前立腺部尿道、精のうなどを切除して、膀胱と尿道をつなぎます。手術時間は全身麻酔で3~4時間。入院期間は3週間程度。術後は尿もれがないかどうかを確認するまで、尿道にカテーテルを10~14日ほど挿入しておきます。
術後の合併症としては、尿失禁、性機能障害(勃起不全)があげられます。前立腺は尿道括約筋と非常に近い位置にあるため、手術により一時的に尿道括約筋の働きに影響を与え、尿失禁を起こしやすくなります。そのため手術直後は失禁パッドなどを使用しますが、機能訓練によって1~3ヵ月で元に戻ります。
性機能障害もやむを得ないと考えたほうがよいでしょう。勃起の神経が前立腺のすぐそばを通っているために、手術によって切断されて障害が生じます。勃起神経を残して前立腺を切除する神経温存手術もあり、がんが小さく、場所も特定できる早期がんに限って、希望する人に行われています。しかし神経温存手術ではがんをすべて切除するのはむずかしく、再発の確立も高くなっています。

前立腺がんQ&A

Q1 前立腺肥大症から前立腺がんに移行することはありますか?

A 前立腺肥大症と前立腺がんはまったく違う病気です。肥大症は良性腫瘍で、がんは悪性腫瘍です。肥大が悪化してがんに移行することはありません。ただ「尿の出が悪い」「排尿回数が多い」などの症状は肥大症もがんも同じですから、症状を訴えて来院される方には肥大症とがんを同時に発病しているケースも少なくありません。まず検査を受けるべきです。

Q2 普段の生活で注意すべき点はありますか?

A がんと診断された人でもふつうの生活ができます。禁止事項はとくにありません。「がんの可能性あり」の段階の人は、予防を考えて脂肪の多い食事を避ける、緑黄色野菜をたくさん摂る、禁煙する、など一般にいわれているがん予防法を心掛けます。いずれにしても、心豊かな生活を楽しみことをお勧めします。

Q3 PSA検査でグレーゾーンと判定され、精密検査の結果は異常なしでしたが、今後も経過観察が必要といわれました。どういうことですか?

A PSA検査は80~90%の高い確率でがんを発見できますが、陰性と判定されても、その後の直腸診や超音波検査などで、ごくわずかの人にがんが発見されたり、反対に陽性と判定された人にがんがなかったりするケースもままあります。ましてグレーゾーンは陰性とも陽性とも判定できないケースですから、その後の精密検査が大切になります。特に、PSA値だけで肥大症と区別するのはまだむずかしい状況にあります。精密検査の結果、観察が必要ということは、がんの疑いが一応晴れたということです。他のがん検診と同じように、定期的に検査を受けて数値の変化を観察していけば、予防にも結びつくのではないでしょうか。

Q4 前立腺肥大症の手術を受け、組織を切除しました。もう検診は必要ないと思いますが

A 前立腺肥大症の手術をしても、切除するのは肥大を起こしている部分だけで、前立腺はまだ残っています。しかも、前立腺肥大症は前立腺の内側の尿道周囲に起こることが多いのに対し、前立腺がんは前立腺の外側の部分から発生することが多いため、残った組織にがんが発生することは十分考えられます。前立腺肥大症の手術を受けた人も、一度PSA検査をする必要があります。