口唇や顔面、性器などに小さな水ぶくれができる病気「ヘルペス」はとてもありふれた病気で、単純ヘルペスウイルスが原因で起こります。しかし、単純ヘルペスウイルスに感染しても多くの場合症状が出ません。ウイルスは体内に潜んでいて、何らかのきっかけで暴れだして症状を引き起こしたり、他の人に感染したりします。
単純ヘルペスウイルスには1型と2型の2つのタイプがあります。幼児期に感染して口内炎などの症状を引き起こすことが多い1型は、口唇、顔面など主に上半身に発症します。2型の感染は20代以降に多く、性器を中心とする下半身に発症します。男性の性器ヘルペスの発症は30~40代がピークですが、女性では17~18歳からみられます。なお、幼児期に1型に感染して単純ヘルペスウイルスに対する免疫ができていると、1型だけでなく2型にも感染しにくく、症状が出ても軽いようです。
性器ヘルペスがかなり増えてきています。これには性行動が活発化したことや、避妊法の発達によりコンドームの使用が減ったことが関係します。さらに、以前はほとんどの人が乳幼児期に単純ヘルペスウイルス1型に感染し、このウイルスに対する免疫を獲得していたのですが、生活環境の変化で大人になるまで感染したことがなく、単純ヘルペスウイルスに対して免疫がない人が増えていることにもよります。
大人になって初めて感染して症状が出たときは比較的強い症状が出ます。性交渉などの感染の機会があってから、2~7日して、比較的急激に性器や肛門の回りなどに不快感やかゆみが生じ、軽い刺激感を伴って赤くなります。小さな水ぶくれが群がって現れ、やがてかさぶたができて治っていきますが、頭痛、発熱が現れたり、足の付け根のリンパ節がはれることもあります。一般には女性の方が男性に比べ症状が重いのですが、たいてい4週間ぐらいで自然に治ります。抗ウイルス剤で治療すると症状も軽くすみ、1~2週間程度でよくなります。
性交渉などでうつった、となると、つい恋人やパートナーを責めたくなります。しかし単純ヘルペスウイルスに感染しても80~90%の人はすぐには症状が現れずにすみます。感染してから数年(時には十数年)後に症状が出る場合(再発)もありますから、原因が今のパートナーにあるとは限りません。
ただ、なかにはウイルスに感染後数日で症状がでる人もいます。この場合は再発時と比べて痛みや水疱、潰瘍などの症状が重く、治癒までの期間も2~3週間と長めです。
ウイルスは神経細胞に潜んでいて何らかのきっかけで暴れだします。きっかけとなるのは紫外線、風邪、疲労、胃腸障害、外傷、手術、ストレス、医薬品などによる抵抗力の低下やホルモンバランスの変化、性交渉、飲酒など様々です。
初めて感染して急激に症状が出る場合に比べ再発の場合には症状が軽いことが多いのですが、繰り返し再発することもありやっかいです。通常、再発は症状が軽く、1週間から10日でだいたい治ります。水ぶくれが現れる前日からヒリヒリするような違和感、熱感、かゆみなどを感じることがよくあります。再発の間隔は人によって異なりますが、一般的には経過とともに間隔は徐々に長くなり、いずれは再発をみなくなります。
妊婦が性器ヘルペスの場合、二つの問題があります。まずは、子宮内の胎児に感染して胎児に奇形が生じたり、流産したりしないかということですが、このような危険性は全くないとは言えませんが非常に少ないと言えます。恐いのは次で、分娩時に新生児が産道でウイルスに感染して新生児ヘルペスになることです。死亡率は高く、助かっても脳などに重大な障害が残るのです。産道にウイルスが存在すると考えられる期間は帝王切開で出産するといった方法をとることもあります。
単純ヘルペスは自然に治るものですが、早めに適切な処置をとると症状も軽く、治りも早いものです。また、ヘルペスは精神的・肉体的ストレスにより体力や抵抗力が落ちているとき、ホルモンバランスが崩れているときによくかかります。あまりクヨクヨせず、栄養バランスの良い食事をとり、暴飲暴食を避け、十分な睡眠と休養をとるように心がけてください。日頃から、ストレスを避け、健康な生活を送る工夫が大事です。