前立腺がんの知識


特 徴

男性高齢者のがんです

前立腺は男性だけがもっている臓器です。前立腺がんは老化による性ホルモンのバランスのくずれや環境、特に食生活など種々の要因が加わって発生する病気といわれています。したがって、50歳代ごろから増えはじめ、発症の平均年齢は70歳くらいといわれる男性高齢者のがんです。

欧米の先進諸国に多い

前立腺がんの発生率は人種差や生活様式などの環境因子によって大きな差があります。欧米諸国に多く、特に米国では、平成5年のデータによると男性がんの発生率で第1位、死亡率では肺がんについで第2位を占め、女性の乳がんと並び社会の大きな問題となっています。

日本でも年々増加しています

最近まで我が国の発生率は欧米の1/10~1/20といわれ、きわめて少ないものといわれていました。しかし、人口の高齢化や生活様式の欧米化、さらに検診の普及と診断技術の向上などにより年々増加の一途をたどりつつあります。


発生部位と進行度

前立腺には内腺と外腺があります

前立腺は男子の膀胱の出口、尿道のはじまりの部分を取り囲むクルミ大の臓器です。前立腺の構造はミカンに似ており、実に相当する部分を内腺、皮にあたる部分を外腺といいます。

内腺には前立腺肥大症、外腺には前立腺がん

年をとるとともに内腺に良性の腫瘍ができやすくなり、尿道を圧迫して尿が出にくいなどの症状がおこりますが、これが前立腺肥大症です。一方、外腺には悪性の腫瘍ができますが、これが前立腺がんです。

男性ホルモン依存性です

前立腺の発育や働きは男性ホルモンによって支配されています。前立腺がんもこれと同じ性質をもっており、老化により男性ホルモンと女性ホルモンのバランスがくずれることが発がんの原因のひとつとされています。このことから、前立腺がんはホルモン依存性がんといわれています。

成長速度は非常におそい

前立腺がんは成長速度がおそく、発がんしてから臨床がんになるまでに40年近くかかると推定されています。すなわち、青壮年期にがん細胞が発生し、20~30年経って微少がんとなり、その後数年以上経って臨床がんに成長すると考えられます。


症 状

初期には自覚症状がほとんどありません

前立腺がんは尿道からはなれた外側の外腺にできるため、初期には前立腺の中央を通る尿道を圧迫することはありません。したがって、がんが成長して直腸診ではっきりと腫瘍がわかる段階になっても、ほとんど自覚症状がありません。

病状の進行とともに排尿障害がでてきます

病巣が大きくなって、尿道や膀胱を圧迫するようになってはじめて症状が現れます。前立腺がんの初期症状としては、排尿困難・頻尿といった排尿に関連した症状が多くみられます。

排尿障害には種々のものがあります

尿の出が悪くなり、排尿感があっても出るのに時間がかかる(排尿困難)、排尿後、尿がまだ残っているような感じがする(残尿感)、尿の勢いが弱い(尿腺無力)、尿の回数が増え、特に夜間に増えてくる(頻尿)、膀胱に尿がたまっても排尿できなくなる(尿閉)などの症状があります。

症状がさらに進むとむくみ・血尿・腰痛などが出てきます

症状がさらに進行すると前立腺の近くにある尿道、膀胱や精のうを冒し、その結果腎臓の働きが悪くなり、むくみや尿に血が混じる(血尿)などの症状が出てきます。また、前立腺がんは背骨や骨盤に転移しやすく、腰や足が痛くなり、ひどい場合は歩けないこともあります。


診断と治療

簡単な直腸診や血液検査による発見率が高い

直腸診は肛門から人差し指を入れて、直腸を通じて前立腺に触れ患部の状態を調べます。血液検査は血液を採って前立腺特有の物質を調べます。前立腺がんはこれらの簡単な方法によりかなり発見できます。その他、さらに詳しく調べるための超音波診断、CT・MRI検査などの方法もあります。また、がんの存在を確認するためには、細胞診・組織検査が行われます。

病気の進みぐあいにより手術、放射線、薬物による治療が、単独または組み合わせで行われます

前立腺がんの治療は、病気の進みぐあいにより早期がんでは主として手術と放射線療法が行われ、内分泌療法も加えられます。それ以降では内分泌療法が主で、補助的に放射線療法、化学療法も加えられます。内分泌療法では去勢術(睾丸を取り出す)の他、薬物療法として女性ホルモン、抗男性ホルモン、LH-RHアナログが用いられます。


予防と早期発見

早期発見・早期治療が決め手です

前立腺がんの発生を予防するための手段は、今のところわかっていません。そこで、できるだけ早期に発見し早期に治療することが、この病気の決め手となります。しかし前述のように、このがんは早期には自覚症状はまったくありません。そして自覚症状が出て受診したときには早期がんの患者は少なく、かなり進行したがんの患者が全体の80~85%を占めています。

早期発見には集団検診やドック検診を

では、早期発見のためにはどうすればよいのでしょうか?それには積極的に前立腺検査を受けることです。欧米諸国では早くから検診運動が国家レベルで進められています。我が国では、現在前立腺がん集団検診が大学病院や大きな病院などで行われています。
一方、中高年の自己健康管理としての人間ドック検診に、前立腺検査が組み込まれて行われています。いずれも早期がんの発見率が高く、成果をあげています。

50歳をすぎたら前立腺検査を

50歳をすぎたら人間ドック、集団検診、その他の方法により前立腺検査を積極的に受けることが、早期発見に大切なことです。