前立腺は、膀胱の出口で尿道をぐるりと取り巻いているクルミ大の臓器で、精液の一部となる前立腺液を分泌しています。
50歳を過ぎた頃から、加齢とともに多くの男性で前立腺(内腺)の肥大がみられるようになります。なお、肥大の程度と症状の出現時期やその程度には個人差があります。
前立腺肥大症になると「尿の出が悪い」「頻尿、特に夜間頻尿」といった排尿症状が出現します。
尿の出が悪くなる原因としては、肥大した前立腺が内側にある尿道を圧迫するため(機械的閉塞)と、前立腺が自律神経(交感神経)の作用で緊張(収縮)して、尿道を圧迫するため(機能的閉塞)であると考えられています。
前立腺肥大症の診断には、排尿症状、前立腺の大きさ、尿の勢いや残尿の有無などを検査します。
また、前立腺肥大症に似た病気(前立腺がん等)や、その他の病気が隠れていないかも調べます。
前立腺の大きさや形を、おなかの表面から超音波(エコー)を使って調べます。
精密に調べる必要がある時には、直腸に超音波の検査器具を挿入して検査することもあります。
普通、排尿した後の膀胱には尿は残っていませんが、前立腺肥大症が進行すると残るようになります。
排尿後に残った尿(残尿)の量を超音波やカテーテルを使って調べます。
尿流量計に普通に排尿するだけで、尿の勢いや排尿の具合が分かります。
尿流測定で判る最大尿流率(尿流率:1秒間の排尿量)という値が高いほど、尿の勢いが良いことを示します。
尿流測定も症状スコア(チェックリスト)と同じように重要な検査で、初診時だけでなく治療効果を調べるために定期的に検査します。
尿流測定の検査には次の点にご注意下さい。
- 検査日は、尿をある程度ためて来院する
- 我慢しすぎず、普段の「排尿したい」という状態になったら検査する
- 緊張したり力んだりせず、普段どおりに排尿する
前立腺肥大症の進行度(病期)は、排尿障害の程度と膀胱や腎臓の変化によって、3期に分けられています。
前立腺肥大症には前立腺がんが合併していることがありますので、血液検査をしてPSAを測定します。
PSAは前立腺がんになると血液中に増えてきます。前立腺肥大症でも高くなりますが、PSAの値が高いほど前立腺がんの疑いが強くなります。
前立腺肥大症と前立腺がんでは発生場所が違います。
前立腺肥大症は尿道に近い前立腺の内腺に発生するため、初期の頃から排尿障害が起きます。前立腺がんは尿道から遠い外腺に発生するので、初期の段階では排尿障害などの自覚症状は少ないといわれています。
前立腺肥大症の進行度を詳しく検査する時や、手術などの外科的治療をするかどうかを決める時には、精密検査が必要となる場合があります。
前立腺肥大症の治療は、多くの場合、薬による治療から始められます。
現在、排尿症状の改善には最初にα1受容体遮断薬が使われることが多くなっています。ただし、この薬には前立腺を直接小さくする作用はありません。
前立腺肥大症が進行している場合や、薬を服用しても効果が不十分な場合などには、外科的治療が行われます。
患者さんの前立腺肥大症の進行度、年齢、体調などによって、最も適した外科的治療法が選ばれます。
外科的治療によって勃起障害が生じることはありません。ただし、開腹手術やTUR-Pの術後には、射精時にペニスの先から精液が出なくなります。
先端に電気メスが付いた内視鏡を尿道に挿入して、前立腺を尿道から削りとる手術です。
腰椎麻酔(下半身麻酔)で行うのが普通で、手術が終わっても数日間は尿道からカテーテルを入れておきます。1週間程度の入院が必要となります。
尿道に入れた内視鏡から前立腺にレーザー光線を照射して前立腺を焼き切ります。
TUR-Pのような根治的治療ではありませんが、TUR-Pを行うことができない高齢者や心臓病などの持病がある方でも受けられます。
入院しないで外来で治療を受けることもできます。
前立腺肥大症の患者さんは、薬の服用やアルコールの飲みすぎで、排尿状態が悪化することがありますので、日頃から気をつけてください。
日常生活で注意していただきたい点
・かぜ薬や胃腸薬などの服用
かぜ薬や胃腸薬の成分には、排尿状態を悪化させるものがあります。
・アルコールの飲み過ぎ
アルコールは利尿作用があるうえに、前立腺をうっ血させるために、飲み過ぎると尿が急に出なくなることがあります。
・水分の制限
水分の摂取を制限すると脱水症状に陥る危険性があるので、飲み物は適度にとるようにしてください。
・下半身の冷え
冷えると前立腺の収縮が増強されます。
・長時間の座位
長時間座り続けると下半身に血液が溜まり前立腺もうっ血します。適度な運動をしましょう。