性行為感染症(STD)は、性行為によって感染するすべての疾患のことです。性行為感染症には、むかしから常連であった梅毒・淋病・軟性下疳などのほかに、最近ではヘルペスウイルスによる性器ヘルペス症・カンジダ膣炎や亀頭炎、クラミジアによるそけいリンパ肉芽腫や膣炎・子宮頸管炎、マイコプラズマによる尿道炎や膣炎などがあります。エイズももちろん性行為感染症にふくまれます。
一方、ほかの性行為感染症で炎症反応や陰部潰瘍などがあると、エイズウイルスに感染する可能性が3~7倍高くなると推定されています。たとえば性器クラミジア症は、症状が出にくいため気づかずに経過している人が多く、日本でも20~30歳の女性の5%が感染していると推定されていますが、これに感染していると、そうでない場合より4倍もエイズウイルスに感染しやすくなるという事実が明らかになっているそうです。
「援助交際」がマスコミで騒がれるなど、若者の性道徳の低下が懸念されています。性行為感染症とその予防に関する認識を高めることが大切です。
ピルは1960年にアメリカで初めて認可された経口避妊薬です。以来、その有効性や安全性を求めて改良が重ねられ、現在は低用量ピル(含まれている卵胞ホルモンの量が中・高用量ピルの半分以下に抑えられたもの)が多くの国で使われています。しかし日本では、これまで避妊のためにピルが使われずに、コンドームがひろく使われてきました。その背景には、低用量ピルは1990年に承認の申請が出されたものの、なかなか認可されなかったという事実があります。
ピルの申請が出された時期と前後して、エイズウイルスの感染のひろがりが社会問題になりつつありました。感染経路のひとつとして性交渉があるため、低用量ピルが認可されることで、コンドームの使用が減り、性感染が増えるのではないかといった危惧がおこり、また、性道徳の乱れの懸念があるとの意見が出され、認可が長いあいだ保留されてきました。一方で、中・高用量ピルの方は、低用量ピルより副作用のリスクが高いことを知ったうえで、約20万人ともいわれる女性に、避妊や月経困難症の治療などのために使われてきました。避妊の有効性はピルが97%、コンドームが82%といわれています。また最近では、ピル解禁に反対する立場から、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)とのかかわりを問題視する指摘もありました。
日本でも、申請から9年を経た1999年、ようやく低用量ピルが認可されることになりました。女性主体の避妊方法が認められたことに、医師や女性団体は「本当の意味の男女平等、共生へ向けた第一歩になる」と歓迎しています。
しかし、異性間のセックスにおいて、避妊と性行為感染症の予防、この二つの異なることがらをコントロールしていくためには、コンドームとピルについての正しい知識を身につけ対処する必要があります。