おしっこ(尿)のコントロールがうまくいかず、尿もれ(尿失禁)や、トイレを我慢できないといった悩みがあると、毎日がゆううつになります。また、そんな不快感を年だからといって我慢したり、誰にも相談できずにひとり悶々と悩んでいる人も多くいます。
しかし、尿もれは中高年女性の4人に1人とたくさんの人に見られる症状です。特に女性では出産、加齢などによって膀胱を支える筋肉が弱くなったり、男性より尿道が短いなどの原因で尿失禁になることが多いのです。このように尿失禁は特別な症状ではなく、多くの方にとって共通の悩みといえます。
尿失禁は、その種類も原因もさまざまです。原因の中には、放っておくと体に負担をかけるような、治療を必要とするものもあります。なにより尿失禁のタイプを見極め、正しい治療法によって症状を改善すれば、より気持ちよく生活できるようになります。
膀胱は下腹部にあり300~500ccの尿を溜めることができます。尿は溜まっても自分で出そうとしなければ出ません。また、膀胱から尿が通る管を尿道といいますが、尿を我慢するときにはこの周りの筋肉が尿道をしめつけて、尿が出ないようにしています。
一方、尿を出すときは、膀胱は尿を押し出そうと縮み、尿道の筋肉はゆるんで尿が外へ流れ出ていきます。このように、排尿には膀胱と尿道の両方の働きが必要です。
男性の尿道は20cm位の長さで、まわりの組織にしっかり固定されています。また、膀胱の出口には尿道を取り囲むようにクルミ大の大きさの前立腺があって、精液の一部を作っています。この「前立腺」が年齢とともに肥大すると、排尿困難(出にくい症状)が起こりやすくなります。
これに対して女性の尿道は約3cmのストンとした短い管です。尿道をしめる骨盤底筋も男性に比べると、もともと弱いうえに出産や肥満によってゆるみ、漏れやすくなります。
各項目に一番当てはまるところがあなたの尿失禁タイプの可能性が高いと考えられます。
また、尿失禁は複数のタイプが重なることもあるため、泌尿器科の医師とよく相談しましょう。
症 状
くしゃみや咳をする、大声を出す、笑う、重い荷物を持つ、階段を昇り降りするなど、お腹に力が入る動作で思わず漏らすのが腹圧性尿失禁といわれるものです。ひどくなると、普通に立ったり、歩いたりといったごく日常的な動作の中でも漏らすことがあります。
原 因
腹圧性尿失禁は、尿失禁の中でも最も多く、中年以降の女性がなりやすいものです。尿道をしめると同時に膀胱などの臓器を支えている骨盤底筋という筋肉が、肥満や妊娠による加重や、加齢によって弾力性を失いゆるむために、尿が出やすい状態となります。そこに腹圧がかかることで漏れが生じます。しかし、腹圧性尿失禁では膀胱それ自体には異常がないため、骨盤底筋を鍛えることで症状は改善します。
症 状
トイレに行くまでに漏らしてしまう、頻繁にトイレに行きたくなる、尿意を感じてすぐに駆け込むが間に合わず漏れてしまう、といった尿失禁は切迫性尿失禁といわれます。
原 因
切迫性尿失禁は、膀胱が過敏に収縮してしまうので、尿を十分に膀胱に溜めておくことができなくなるのが原因とされます。本来、尿が溜まった段階まで、脳は排尿をがまんするように指示しています。しかし、切迫性尿失禁ではこの連携がうまくいかず、勝手に膀胱の収縮が起こって漏れてしまうのです。排尿の命令を出す脳や、膀胱と脳の指令を伝える脊髄に問題がある場合、また膀胱が炎症によって過敏になっている場合などで起きると考えられます。
症 状
溢流性尿失禁では、常に膀胱内に残尿があり、さらに尿がいっぱい溜まってくると、それが溢れて漏れてきます。トイレではなかなか出ないのに、気づかないうちに漏れていたり、腹圧がかかったときに漏れるといったことが起こります。尿意がはっきりしている人は頻尿にもなります。尿がいつも出ている状態なので、臭気なども気になります。
原 因
溢流性尿失禁は、排尿困難が原因で起こる尿失禁です。男性では前立腺肥大症、女性では子宮脱などのために、尿道が開かなかったり、膀胱が収縮する力がなくなることで、尿が膀胱から外に出づらくなり、排尿困難が起こります。新しい尿は腎臓からどんどん膀胱に送られてきますので、やがて膀胱は残尿でいっぱいになります。そして行き場を失った残尿が、常に尿道の隙間から少しずつ溢れて漏れてくるようになります。これが溢流性尿失禁です。この尿失禁は放置すると腎臓に悪影響が出る可能性があるため、早めの治療が必要です。症 状
おしっこをしたいと思っても、それが排尿動作に結びつけられずに漏らしてしまうのが機能性尿失禁です。たとえば、手足がうまく使えないため、トイレに行くまでに時間がかかり漏らしてしまうもの、排尿を判断すること(どこでするか、どうするかなど)ができないために漏らしてしまうものがあります。
原 因
機能性尿失禁は、特に高齢者に多くみられます。排尿の機能そのものには問題はないのですが、排尿に至までに手間どり、間に合わず漏れてしまうなど、排尿動作それ自体に問題があるケースがしばしばです。また、知能障害、情緒障害、意識障害、痴呆障害などのため、排尿についての判断ができない、尿意を伝えることができないなど意識レベルでの原因もあげられます。治療よりも生活の中で介護の工夫が必要になります。
尿失禁にはさまざまな種類と原因が考えられます。正しい治療を行うためにも、あなたの尿失禁がどのタイプかを見極める必要があります。検査といっても簡単に受けられるものも多いので、難しく考えず泌尿器科の医師に相談してみましょう。
尿検査
膀胱炎や尿路感染症がないかをみます。
超音波検査
超音波断層装置による検査です。腎臓や膀胱に異常が無いか、残尿や膀胱結石、膀胱腫瘍、前立腺肥大症などがないかをみます。超音波の機械をお腹にあてて調べるだけで済みます。
尿流率検査
尿の出る勢いをみて、きちんと出ているかを調べます。
パッドテスト
パットをつけ、実際にどのくらい漏れるかをみます。
残尿検査
超音波や、尿道からカテーテル(細くて柔らかいゴムなどでできた管)を膀胱に入れ、膀胱内に残った尿量を測ります。
膀胱造影検査
膀胱に造影剤をカテーテルで注入し、その形や機能などを調べます。
膀胱内圧測定
尿道からカテーテルを膀胱に入れ、膀胱の圧力を測ります。この膀胱内圧測定によって膀胱の尿を溜める働きを検査します。
尿失禁の治療法は、それぞれのタイプによって異なります。しかし、大きく分けて、運動・薬・手術の3つの方法があります。大半の治療は運動や薬の使用によって改善がみられます。いずれも主治医とよく相談の上、適した方法を選択する必要があります。
尿道をしめる筋肉を強くする体操です。歯磨きをしながら、テレビを観ながら、いつでもどこでもできる運動です。軽い腹圧性尿失禁には、この運動がおすすめです。
あおむけで
あおむけに寝て脚を肩幅に開き、両膝を軽く立てて体の力を抜き肛門と膣をしめます。しめたままゆっくり5つ数えます。この動作をできるだけ繰り返してください。筋肉が強くなれば、長くしめつづけることができるようになります。
椅子に腰かけて
あおむけに寝て脚を肩幅に開き、両膝を軽く立てて体の力を抜き肛門と膣をしめます。しめたままゆっくり5つ数えます。この動作をできるだけ繰り返してください。筋肉が強くなれば、長くしめつづけることができるようになります。
テーブルに手をついて
脚を肩幅に開き、手も肩幅に開きテーブルにつきます。上体の重みを全部腕にのせて、背中をまっすぐに伸ばし、肩とお腹の力を抜いて、肛門と膣をしめます。
* それぞれの動作を10回ずつ(計30回)を1セットとして、1日3セットが目安です。
この運動の効果があらわれるには、3ヶ月近くかかります。 一般的には薬物療法で尿失禁を抑え、その間にこの運動を続け、効果があらわれた頃に薬を中止する方法がとられます。
腹圧性尿失禁には、尿道をしめる力を強くする薬を使います。ただし、骨盤底筋体操と組み合わせます。
切迫性尿失禁には、薬が特に有効です。膀胱が勝手に収縮しているので、膀胱をリラックスさせる薬を使います。
溢流性尿失禁には、尿道を開いたり、膀胱を収縮する力を強める薬を使います。
薬には副作用や使えない場合もありますから、よく医師と相談することが大切です。
腹圧性尿失禁では、骨盤底筋体操や薬などの方法がとられる場合がほとんどです。しかし、重症の腹圧性尿失禁の場合には漏れにくい形にする手術もあります。
男性では、溢流性尿失禁の原因として前立腺肥大症が診断されることもあり、その場合には手術も考えられます。
その他、電気刺激療法や、出にくい尿を自分で管でとる自己導尿といった方法もありますが、いずれも指導を受け、生活に差しさわりのないように実践することができます。